設計の考え方

伝統のように愛され現代に伝えられることがあります。その一方で人間は新しいことを次々と生み出します。新しいことの中には、時代ごとの好みや考え方と合致し伝統のように次代 につながることもあれば、流行としてそこで立ち消えていくこともあります。流行や表面的な新しさを求めるのではなく、人間の生の営みに即して次代につながるものをつくりたいと考えています。その考えを実現するため「おおらかであること」「自然の状態であること」「素材を活かすこと」という三つのことを特に意識しています。

1.おおらかであること

科学・技術の発達や合理主義の浸透により、あらゆる場面において経済性を重視して数字を突き詰めた「制度設計」や「ものづくり」が行われています。そこには余裕やゆとりがなく常に緊張感が漂います。そのような余裕のない状態では想定外の出来事が起きた時にそれを受け止めて対処する余力がありません。想定外の出来事に対して、それらを受け止めて悠然と構えているような【おおらかさ】を備えたものをつくりたいと考えています。

2.自然な状態であること

日本の気候風土の特徴を大雑把に列挙すると、地域差はありますが「一年を通して雨が降ること」「夏は蒸し暑いこと」「冬は乾燥しやすく、雪が降ること」さらには「地震が頻繁に発生すること」「台風が頻繁に上陸すること」が挙げられます。日本国内の建物はこれらの環境に対応するため、多くの性能を要求されます。しかし周辺の環境や自然の摂理は人間が変えることはできません。そのような環境や摂理に逆らうのではなく、上手く利用してわざとらしさや無理のない【自然の状態】であるものをつくりたいと考えています。

3.素材を活かすこと

日本人は素材の生なり感を好む傾向があると思います。それは現代では十全に表現されているとは言い難いものですが、伝統的な自然との共存の意識や料理の調理方法などには端的に表れていると思います。木や石などの素材がもつ質感を損なわずにわざとらしさのないように使用する【素材を活かした】ものづくりをしたい、そのようなことを考えています。誤解のないように付け加えるならば、その考え方は装飾性を全面的に否定することではありません。控えめではあるものの、日本にも装飾を楽しむ文化はあると思います。